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パッヘルベル《アポロンの六弦琴》

パッヘルベル《アポロンの六弦琴》全6曲 + シャコンヌ へ短調

「カノンの作曲家」本当の自信作

 横山博:パイプオルガン

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《アポロンの六弦琴》第2曲 (オルガン:横山博)

 

 《パッヘルベルのカノン》で知られる作曲家ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)は、バロック中期のドイツ・オルガン音楽における重要な存在です。南ドイツのニュルンベルクに生まれ、アイゼナハ、エルフルト、シュトゥットガルト、ゴータでオルガニストとして活躍した後、1695年からは故郷ニュルンベルクの聖ゼーバルト教会オルガニストを務めました。アイゼナハでJ. S. バッハの父ヨハン・アンブロージウスと親交を結び、エルフルトではバッハの長兄ヨハン・クリストフがパッヘルベルに3年間師事しており、バッハも兄を通してパッヘルベルの影響を大きく受けています。

 パッヘルベルは数多くのすぐれた鍵盤楽曲を残していますが、とくに変奏曲を得意とし、コラール変奏曲のほか、世俗的な旋律による変奏曲も作曲しています。本日は、彼の変奏曲の中でもとくに傑作とされる《アポロンの六弦琴》全6曲を、オルガンの美しい響きとともにお楽しみ下さい。

 

《アポロンの六弦琴》

 この作品は6曲のアリアと変奏からなる曲集で、パッヘルベルの熟練した変奏技法が生かされています。パッヘルベルがニュルンベルクの聖ゼーバルト教会オルガニストに就任し、オルガニスト、作曲家、教師としての名声を確立した後に作曲され、1699年に出版されました。この作品には、自分の自信作を世に示し、弟子たちの教育に役立てようというパッヘルベルの意図がうかがえます。タイトルページには、オルガンあるいはチェンバロで演奏できると記されており、この2つの楽器の絵が描かれています。またこの曲集には長い序文が付いており、彼と同時代の2人の作曲家に献呈されています。ひとりは南ドイツを代表するウィーンのフェルディナント・トービアス・リヒター(1651-1711)、もうひとりは北ドイツを代表するリューベックのディートリヒ・ブクステフーデ(1637頃-1707)です。パッヘルベルは2人を高く評価し、南ドイツと北ドイツの様式の融合を目指しています。彼はまた序文の中で、自分が音楽教育を施した当時13歳の息子ヴィルヘルム・ヒエローニムスが、この2人の大家の弟子になれるようにという願いを述べていますが、それが実現したかどうかは不明です。

 この曲集の第1曲はニ短調で、次はホ短調、ヘ長調、ト短調、イ短調と、第5曲までは1音ずつ調が上がり、第3曲のヘ長調を中心に、調が完全5度内に配置されています。その順番でいくと、第6曲はさらに1音上がって変ロ長調になるかと思われるのですが、予想に反して完全5度内の中間点に戻り、ヘ短調になっています。第6曲には「ゼーバルトのアリア」という副題が付いており、パッヘルベルが当時オルガニストを務めていた聖ゼーバルト教会と関連付けられます。最初の5曲は4拍子で、変奏は6つまでであるのに対し、第6曲は3拍子で、8つもの変奏を含んでいます。ヘ短調という調性にも独特の性格があり、第6曲は曲集全体の中で際立った存在となっています。

 各曲は、最初にアリアの主題が奏され、そのあとに変奏が続きます。主題は簡素で控え目ながら美しい魅力をもった旋律で、前半・後半の反復を伴う2部分形式で書かれています。変奏では旋律が細分化され、リズムに変化が加えられていきます。低音パートも動きが活発になり、主題旋律と絡み合う内声も挿入されます。第3曲や第5曲の第6変奏では、右手と左手が両手で16分音符の細かい動きを見せ、最後のクライマックスを築きます。一つの主題が基礎となり、全体の統一が保たれる中で、多彩な変化が生み出されていきます。

 

シャコンヌ ヘ短調

 シャコンヌはバロック時代の変奏曲の一種で、パッサカリアと同様、一定の低音旋律または和声進行を基礎として変奏が繰り広げられる形式です。この曲では、低音の下行する4度の音型が繰り返され、それを土台として荘重な音楽が展開されます。ここでも、パッヘルベルのすぐれた変奏の腕前が発揮されています。このようなパッヘルベルの音楽がバッハにも受け継がれ、バッハのパッサカリア ハ短調(BWV582)のような名曲も生まれることになります。

 

尾山真弓(音楽学・洗足学園音楽大学講師)

 

 

シャコンヌ ヘ短調 (オルガン:横山博)