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8月5日発売

 

ジョン・ケージ:《ある風景の中で》《夢》

 

John Cage

 

In a Landscape 

Dream

 

1948

 【初回特典】

オリジナルトートバッグを先着5名様にプレゼント!

 

 

2022年東京ライヴ録音 使用ピアノ:Fazioli F278 ¥1,200(税込)

 



「カノンの作曲家」本当の自信作

パッヘルベル《アポロンの六弦琴》全6曲 + シャコンヌ へ短調

「カノンの作曲家」本当の自信作

 横山博:パイプオルガン

¥1,800

  • 在庫あり
  • お届け日数:2~4日1

 ポピュラーな名曲《パッヘルベルのカノン》の作曲家ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)は、バロック中期のドイツ・オルガン音楽における重要な存在で、J. S. バッハにも大きな影響を及ぼした人です。彼は数多くのすぐれた鍵盤楽曲を残していますが、とくに変奏曲を得意とし、コラール変奏曲のほか、世俗的な旋律による変奏曲も作曲しています。《アポロンの六弦琴》は後者の例で、6曲のアリアと変奏からなる曲集です。6曲全部が演奏される機会はあまりありませんが、パッヘルベルの熟練した変奏技法を示す傑作で、隠れた名曲といえます。

 パッヘルベルは南ドイツのニュルンベルクに生まれ、アイゼナハ、エルフルト、シュトゥットガルト、ゴータでオルガニストとして活躍した後、1695年からは故郷ニュルンベルクの聖ゼーバルト教会オルガニストを務めました。《アポロンの六弦琴》(1699年出版)が作曲された頃には、オルガニスト、作曲家、教師としてのパッヘルベルの名声は確固としたものになっており、この作品には、自分の自信作を世に示し、弟子たちの教育に役立てようというパッヘルベルの意図がうかがえます。またこの曲集には長い序文が付いており、彼と同時代の二人の作曲家に献呈されています。一人は南ドイツを代表するウィーンのフェルディナント・トービアス・リヒター(1651-1711)、もう一人は北ドイツを代表するリューベックのディートリヒ・ブクステフーデ(1637頃-1707)です。ブクステフーデはバッハにも大きな影響を与えた作曲家です。パッヘルベルはこの二人を高く評価し、南ドイツと北ドイツの様式の融合を目指しています。

 パッヘルベルの音楽の伝統はバッハにも受け継がれています。アイゼナハ時代にパッヘルベルはバッハの父ヨハン・アンブロージウスと親交を結び、エルフルトではバッハの長兄ヨハン・クリストフがパッヘルベルに師事しています。10歳でバッハが両親を亡くした後、彼を引き取ったのがこの長兄であり、バッハは兄を通してパッヘルベルの音楽を幅広く知り、多くを学び取りました。バッハに至る音楽の流れを考えると、パッヘルベルの音楽には、まだまだ発見すべき魅力が隠されていることがわかります。

 《アポロンの六弦琴》はチェンバロでも演奏できますが、今回は横山博氏のオルガンで、全6曲が演奏されます。変奏曲は、全体が一つの主題に基づく統一感の中で、多様な変化を楽しむことができます。音楽の神アポロンの竪琴から奏でられる素晴らしい音楽のように、親密な空間で奏でられるオルガンの美しい響きは、私たちを至福の世界に導いてくれることでしょう。

尾山真弓(音楽学)



CD: モートン・フェルドマン《マリの宮殿》 Morton Feldman: Palais de Mari

ピアノ:横山博

ライナーノーツ:前田智成

録音:2022年3月15日(豊洲シビックセンターホール)

使用楽器:FAZIOLI F278

¥1,500

  • 在庫あり
  • お届け日数:2~4日1

The program notes for the recital in which this piece was performed can be read here.


横山博ピアノリサイタル CAGE & FELDMAN

 

〈2枚組〉

 

【Disc1】 

ジョン・ケージ

プリペアド・ピアノのための

《ソナタとインターリュード》全20曲(69分)

使用楽器:New York Steinway B

 

 

【Disc2】

モートン・フェルドマン

《バニータ・マーカスのために》

(75分・豊洲シビックセンター公演ライブ録音)

使用楽器:FAZIOLI F278

 

¥3,000

  • 在庫あり
  • お届け日数:2~4日1

 【Disc1】 

 

チェンバリストの横山が、ヒストリカルアプローチで再構築した20世紀の古典音楽《ソナタとインターリュード》(1948)。「正しいプリパレーション」によって得られた、このプリペアド・ピアノの音は、エキゾティシズムの中に気高さをそなえている。綿密に計算されたボルトやネジによって生み出される音色は、ダンパーペダルを踏み続けることで無限に折り重なり・・私たちのピアノという楽器の理解は強く揺さぶられる。


【Disc2】 

 

20世紀ピアノ音楽最大の傑作、フェルドマンの《バニータ・マーカスのために》(1985)。演奏時間70分を超えるこの静寂の作品で、横山はリズミカルに耳を遊ばせる。曖昧にゆれるフェルドマネスクとは無縁の問題作。

マーク・ロスコに代表される抽象表現主義絵画のよう、静かに空間を染める音楽が、そのフレームに、折り目正しく収められていく。

かつてストラヴィンスキーの音楽に触発されたフェルドマン。バレエ音楽《バニータ・マーカスのために》を提示した2020年豊洲シビックセンターホールでの歴史的ライブ録音。


ピリオド楽器としてのスタインウェイ

 

横山博

 

 

 プリペアド・ピアノとは、ボルトやネジ、ゴム等をグランドピアノの弦と弦の間にピアニストが予め挟み込み、ピアノの音を鐘や鈴、太鼓などの音に見立て、ピアノ1台でパーカッション・アンサンブル、ガムランのような様々な音色を出す手法です。

 ジョン・ケージは1949年の文書で、「ソナタとインターリュードに好ましいピアノは、Steinway Mです」と述べています。このMというモデルはフルコンサートピアノではなく、スタインウェイが販売するピアノの中では奥行き170cmと、かなり小さなグランドピアノです。両国門天ホール所蔵のピアノはこのSteinway Mです。プリペアド・ピアノでは、ピアノの寸法と、音色、そして音高までもが深く結びついています。大きなグランドピアノ、また、他社のピアノでは、ケージの望んだ音をプリペアすることは実質不可能と言えます。つまり、スタインウェイ以外のピアノにプリペアする場合、弦の長さが足りない、長すぎる、ピアノのフレームが邪魔をして、ケージが指定した位置に挟み込めないという現実的問題が起こります。

 私は普段、チェンバロ、クラヴィコードを弾いています。調律、弦の張替えのメンテナンスは日常的なことですので、楽器内部をアレンジする事に対して何の抵抗もありませんでした。クラヴィコードは、金属と金属の接触によって、あの微細で神秘的な音色が現れます。もちろん、それが楽器にとってダメージだと考えたことはありません。

 シフトペダル(グランドピアノの左のペダル)について、ケージは、「シフトペダルの動きは、ハンマーが3つ全ての弦ではなく、2番目と3番目の弦を打つように調整してください」と出版後に報告しています。現行の国産ピアノは、工場から出荷される状態では、2本弦を打つようには設定されていないことが多いそうです。ほとんどの場合、シフトペダルはピアノの音色を「ソフト」にするものだと思われています。しかしここでは鳴り響く弦の「数」を変更する装置であり、それはチェンバロやパイプオルガンの音色を操作するメカニズムと似ています。

 

「私は海辺を歩きながら、自分の気に入った形の貝殻を探すように、プリパレーションの素材(マテリアル)を決めていきました」ジョン・ケージ

 

 ボルトの音色は日本のお寺や教会の鐘の音に似ています。高音域に多く用いられているネジの音色は鉄琴(グロッケンシュピール)のようにキラキラとしています。ポコポコといった弾力性に富むゴムのミュートが作り出す響きは、木魚の音にも似ています。

 天然素材を多く含み、一点一点形や音色も異なる古楽器製作家が作る楽器とは違い、工業製品である現代のピアノにおいては、ボルト、ネジといった金属部品は基本素材です。それらをピアノ線に挟み込み、そこから出る音色を変化させるという、コペルニクス的転回は(たとえそれが偶然の産物であったとはいえ)、私たちのピアノという楽器への理解に揺さぶりをかけるものです。1950年代から本格化する古楽器復興運動が似たような原動力を伴っていたように、プリペアド・ピアノの発想は、工業社会が生み出す完璧な楽器に対する「介入」であり「異議申し立て」でもあったのです。

 現代のピアノを調律するとき、調律師は、最初にラ(A)の音を440-442ヘルツに合わせます。しかしソナタ第16番終結部の左手親指に表れるラの音はプリペアされていないので、鐘のような音は鳴らずに、普通のピアノのラの音が鳴ります。何度も書き込まれているそのラの音を何回弾くかは、ピアニストに委ねられています。

 

「教会の鐘のような音はヨーロッパを連想させます。余韻があって太鼓のような音は東洋的です。この曲集の最後のソナタ第16番は、疑いようもなく「西洋人」である私の署名として作曲しました」ジョン・ケージ

 

2018年12月22日横山博プリペアドピアノリサイタルで配布されたパンフレットより

 

空間化される時間

 

横山博

 

 

 諸々の芸術分野、ポップカルチャーなどに影響を与え、また、自然科学の領域でも語られることの多いアメリカの作曲家ジョン・ケージですが、その作品が滅多に公開演奏されないことでも有名です。完全な沈黙を体験しようとジョン・ケージはハーバード大学の無響室に入りしました。音から遮断されたはずの耳に聴こえてきたのは、「血液の流れる音」と「神経系統の音」という二種類の身体内からのノイズでした。命の音を聴いたケージは「沈黙は存在しない」という認識に至り《4分33秒》を作曲したとされています。

  一方、モートン・フェルドマンは、視覚芸術を音楽に変換することを試みていました。フェルドマンは若い頃、抽象表現主義画家の制作助手をした経験があり、キャンバスの面積と、音楽作品の持続時間を関連付けていました。美術作品で「大きな作品」は、音楽作品に置き換えると「長い作品」になるだろうと考えるようになりました。フェルドマンと交流のあった抽象表現主義画家、マーク・ロスコ[1903-1970]もまた、巨大な作品を多く制作しました。ロスコの作品を、日本では千葉県佐倉市にある川村記念美術館で見ることができます。《シーグラム壁画》と呼ばれる、横幅4.5メートルに及ぶ絵が薄明かりの部屋に7点展示されており、その薄く何層にも塗り重ねられた赤茶色の絵肌は、乾いた血を思わせます。深い内省を促すその絵画群は、視覚芸術の枠組みを超え、ひとつの空間芸術、インスタレーションとなっています。

  フェルドマンは、ドイツのダルムシュタットでの講演会で、自身の作品と絨毯との関係を述べています。

  「私は、『絨毯(ラグ)』から音楽のアイデアを得たのです。天然の野菜で染められた伝統的な絨毯には、アブラッシュと呼ばれる色ムラがあり、微細な色調を備えています。仄かにグラデーションとなった、微かな光を、そこには見ることができるのです。絨毯と、音、二重の感覚を持って、どうしたらそれを音楽にできるのか。あの深く精妙な青は、一度染めただけでは出すことができません。何度も、何度も、染め直す必要があるのです。屋外に出た女性たちが、時間をかけて、注意深く染め直し、そしてまた染め直すという作業を繰り返すのです。作業を行っているその音が、私の作品のアイデアの一部となっています。」

 《バニータ・マーカスのために》の出版にあたって、フェルドマンは次のようにコメントしています。

 「リズムという言葉の代わりに「リズミカルにする“rhythmicize”』という言葉を使いたいと思います。この作品は、主に3/8拍子、5/16拍子、2/2拍子のパターンで構成されています。メーター(拍子、音の長さ)というものを、ひとつの作図法として用いたのです。その結果、メーターと時間の関係は、作品の持続時間として現れました。」

 1982年にコンパクトディスクが発表された当初、その最大収録時間は74分でした。《バニータ・マーカスのために(1985)》の演奏時間は75分とされています。CDでは連続再生ができないよう演奏時間を設定したのでしょうか。SPレコードの最大収録時間5分を超えないように作曲された《4分33秒》とは対照的です。

 

2020年1月11日横山博ピアノリサイタルで配布されたパンフレットより